争点は三つある。まず一点は、「経年劣化」を「老朽」として捉えるか、どうかである。次には、「老朽」に対する客観的判断の問題である。もう一点は建物の効用の減退に社会的、経済的視点を含めるか、どうかである。裁判所の判断は少なくとも事件の対象になった建物を老朽していると捉えている。ただし、そこでは「老朽」を物理的な減退としており、建替えを推進する人たちのいう社会的、経済的視点からの判断は含めていない。その上で老朽に対する客観的判断は保留して、統計的な経済耐用年数から、建物が三〇年に達するとその維持・修繕に相当の費用を要し、それに対してどの程度の費用をかけるかは区分所有者の判断によるとした。
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つまるところ、老朽しているかどうかの判断は、経済的評価の問題として当事者たちの多数決に委ねたのである。もともと、裁判所のいう「建物の耐用年数に関する実証的調査研究」は、バブル経済期に発表されたもので、大きくその当時の経済事情を反映している。また、当時は築三〇年を超えるマンションのストックはきわめて少なく、調査の対象として十分ではない。裁判所の判断の是非を問うのは別にするとして、老朽は建物の物理的減退を示すが、その回復の判断を経済的評価によるのが妥当であるとするのが裁判所の判断であり、それが社会の経済的通念を構成していることがうかがえる。いずれにしろ、この事件は、今後、多くのマンションで起こる建替えをめぐる合意形成の困難さを予測させ、平成一四(二〇〇二)年度の区分所有法改正のきっかけの一つになった。